乗る旅の方はいつもながらの軽妙な筆致で楽しく読ませる。読む旅は、殆ど知らなかった宮脇俊三氏の部分で、さすがに名編集長として慣らした人であったことをうかがわせる。最後の令嬢による父親像は愛読者としてはとても参考になった。
正月に実家に帰省した際、本棚に並んでいる宮脇氏の文庫本を数冊持ち帰ってきた。本書に出会ったのは昭和59年。私が高校生の時である。この『時刻表2万キロ』を読み終わった後に、無性にローカル線に乗りたくなり、当時発売されたばかりだった、国鉄の「青春18切符」を購入し、全国のローカル線の旅に出発したことを思い出した。
昨日、既に黄ばんだ初版の本書を再び読み終えた。宮脇氏がいかに「鉄道旅」を愛し、偏狂ともいえる情熱をもって歯抜けのジグソーパズルとも言える未乗の全国各地のローカル線を乗りつぶしていったのか、同じように家庭を持ち、仕事に束縛される日々を送る年齢になって、あらためて彼の偉業に感嘆した。それは、TV番組でお膳立てされた、車窓風景・鉄道旅ではない、一人黙々と時刻表と取っ組み合いながら、自分の立てたプランのすばらしさに満悦してしまう旅である。
「一人旅」という言葉に、何か心を惹かれる方、是非読んでみてください。
2001年にJTBから出た『七つの廃線跡』の文庫化。もともとは『鉄道廃線跡を歩く』(JTB,1995-99年)という廃線ばかりを特集した本の第一集~第七集に、巻頭エッセイとして載せられたもの。 7編のエッセイではあるが、夕張鉄道、下津井鉄道、琴平参宮鉄道、南薩鉄道、奥羽本線旧線、南大東島・砂糖鉄道、上山田線、漆生線、油須原線、北陸本線旧線と10の路線が取り上げられている。 廃線跡をたどるといっても、保存状況はさまざまである。サイクリング・コースとして整備されたところもあれば、藪をかき分けて進まなければならないところもある。それは周囲の人々や自治体が鉄道にどれだけの愛着を持っているかということと関係している。実際に地元の人たちに話を聞くシーンもあり、場所による温度差が興味深かかった。 夕張鉄道や下津井鉄道が廃止されたのは比較的近年のことであり、宮脇氏が乗ったことのあるものも少なくない。それらの路線が健在だった頃の乗車記と読み比べてみても面白いだろう。